きもの四方八方[ 伝え継ぐもの ]

7・8月
伊勢型紙「芭蕉に雨」/本染長板ゆかた「水紋」「菖蒲」
「親父は数十枚の型紙の中から、一枚か二枚しか選ば
ないんだよ」亡夫が語っていた先代の型紙選びの姿が
眼に浮かぶようです。こうして蒐集した伊勢古型紙は
約千枚、現在はむら田染織ギャラリーに所蔵していま
す。四季の風物や動植物の大胆でモダンな図案の明治
から大正の中形、精緻で洒脱な意匠の江戸小紋の型紙
など、デザインの面白さに魅了されます。
私がむら田に嫁いだばかりの頃(昭和30年代半ば)、
先代はこれらの型紙から数枚を選んで、その年の浴衣
を各数反ずつ染め出して居りました。初夏の頃、藍の
香りと共に数十反が店先で井桁に組まれ、待ち兼ねた
お客様の手に渡って行く樣は昨今では夢の中の出来事
です。
木綿を長板に張り両面に糊を置き、藍液に浸して染め
る仕事の大変さを先代が語っていました。「難しい仕
事の割に工賃が安いから一番先になくなるよ」
稀少になって参りましたが、嬉しいことに今も「長板
本染」の技術は受け継がれています。
この斬新な芭蕉の型紙の下の本染浴衣は、現在は娘の
箪笥から。六十年前の私の夏の思い出の浴衣です。

*むら田染織ギャラリーのインスタグラムを始めました。
伊勢型紙を少しずつ投稿して参ります。 →インスタグラムはこちら