コラム

きものの話あれこれ 村田吉茂
1971年(昭和46年)12月「ミセス」掲載

No.12 これからのきもの
自然から学ぶ心を忘れずに

 いいきものを選んでいただくためには、まず美を把握していただかなくてはいけない、審美眼を持っていただかなくてはいけない、と毎回お話しを進めてきましたが… なんといっても、美は具体的に説明できません。それで毎回いろいろな角度から、いろいろな事例を引いて、お話しをしてきたわけなのですが、今月は最後ですので、きものの場合の美の見方とでもいいましょうか、見る目安を少々お話ししてみましょう。

 きものの場合の美の基準の、具体的に説明できるものとしては、一に色、二に図案、三に構図、四に素材、五に組織(織り味)が考えられます。この五点が総合されて、初めて美しいといえるのです。名品と呼ばれている、古代裂、よろい、小袖等の美術品は、すべてこの五点が総合されたものです。しかし一般には、色、図案がよければまあ美しいということになっていますが、実は、素材からくる味が色や図案に強く影響している場合が多いのです。たとえば、色も図案もいいのだけれど、なんとなく味がなく、うすっぺらな感じがする、などということは、素材や組織が色や図案に合っていないわけです。どんな色や図案にどんな素材、などということは、とうてい説明できるものではありませんから、いつも申し上げていますように、古今の名品といわれている染織品をできるだけたくさん見て、ご自分で学びとっていただくよりしかたがありませんね。

 そして、この五点の総合されたものに、更に加えられなければならないもの、それは具体的に説明することのできない作者の心、つまり入心度です。これも、いつもお話ししていましたように、具体的には、言葉で表わせませんね。あなた自身が、あらゆる芸術品から学びとり、感じとっていただかねばならないものです。

 学びとるといえば、きものの美の第一の基準になる色は天然自然がお手本ということは、前にもお話ししたとおりです。一輪の花、一本の木を身近に置いていると、自然の持つ邪念のない美しさ、安らぎが感じられて、更に自然のものへ、美しいものへ、と本能的に心が動かされていくものなのです。謙虚に自然から学ぶ心、日常生活の中に、ほんの少しでも天然自然の美を取り入れて、楽しみ、学ぶ心を忘れないでいただきたいと思うのです。