コラム

きものの話あれこれ 村田吉茂
1971年(昭和46年)10月「ミセス」掲載

No.10 いい買い物をするために
まず、いいお客になる

 そろそろ秋もたけなわとなり、秋のきものをお求めになるかた、早めに春着の注文をなさるかたなどがいらっしゃるでしょう。

 今月はよりいいきものをお求めいただくための買い物のマナーとでもいうんでしょうか、そんなことを話してみたいと思います。

 まず、いい買い物をなさるのには、いいお客になることです。いいお客、それは、相手の立場になってものを考えられるかた、と申し上げたいですね。物を買うときにも売る立場になって考えられることのできるかた、そういうかたは、相手の売る立場の者から好感を持たれ、結局はいいお得な買い物ができるのです。もちろんこれは売る立場の者にもいえることで、要するにどちらも思いやりを持って対するということです。

 たとえば、ご注文で染めた紋付の羽織を、でき上がってから気に入らないなどとおっしゃるかたがあります。手がけたものとしてどこがどうお気に召さないかと伺ってみると「なんとなく」とおっしゃる。わたしのほうはたいそうよくできたと思っているのに、どこをどうと指摘なさらず「なんとなく気に入らないからいらない」などとおっしゃられると、作ったものにとって、作品は子も同然、はっきりした理由もないのにいらないとは、とまことに腹だたしい思いがします。ほかのものならいざしらず、家紋入りのものでは、ほかのお客さまにお願いするということもできません。こういう、手がけた者の苦労も思いやらずわがままをおっしゃるかたは、業者から警戒心を持たれて、二度とその店から好感を持たれなくなります。そして、不思議にこういうかたは何回も同じようなことをくり返して、他の店へ行ってもまた、同じことをくり返すことが多いのです。

留袖「遠山]袋帯「木立」

留袖「遠山」袋帯「木立」
村田吉茂創案 昭和36年