きものの話あれこれ |
村田吉茂 |
1971年(昭和46年)7月「ミセス」掲載
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No.7 羞恥心と季節感について
近ごろの夏は暑くない
薄物の季節になりましたね。
麻や、紗、絽の透けるきものの美しさは、まことに日本の夏の季節感を表わした独特のものと思います。昔は、上布や絽の透けるきものを、いとも涼しげに軽やかに着た女性が多かったものです。今はどういうわけか、きものは暑いからと、夏だけ洋服になってしまうかたが多いようですね。
夏は暑いからとおっしゃいますが、観念的にそう思い込んでいらっしゃるんじゃないでしょうかー。わたしにいわせれば、近ごろの夏は暑くないと思います。たいがいの家庭にはクーラーが備わり、外出ともなればタクシーは冷房車、そして外出先はほとんど冷房完備というわけで、うだる暑さの中で誰でもきちんときものを着ていた昔に比べると、夢のような時代になったと思います。それなのに夏は暑いからと頭から決めてかかり、きものを敬遠する、そして、失礼ながらあまりお似合いにならない洋服を着ていらっしゃる。こどもの時から洋服で育った年代のかたたちはともかく、きもののほうがずっとお似合いになる年代のかたまで洋服になってしまわれる。日ごろ、美しいきもの姿を見なれているだけに、似合っていない洋服姿が残念でなりません。