きものの話あれこれ |
村田吉茂 |
1971年(昭和46年)6月「ミセス」掲載
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No.6 美意識を持つということ…
デザイン盗用はお金を盗むより悪い
今まで、我々売り手から見たお客さまである皆さまがたに、いいきものを着ていただくための話をしてきましたが、今月は、染め屋や機屋の製作者や、デパートや呉服店などの売り手の、美に対する姿勢とでもいいましょうか、そんなところから話を進めていきましょう。
新聞などで、海外で外国製品をまねした日本商品が問題になった記事を見ると、ほんとうに情けなく口惜しくなりますね。どうして人が苦心したものをまねするんでしょう。わたしはアイディアとかデザインは、人が心血を注いだものなんですから、それを盗むのはお金を盗むより悪いことだと思うのです。
きものの世界でも人まねやデザイン盗用が多く、それにまつわる笑えない笑い話がたくさんあります。たとえば、鴨川の河原に干しておいた友禅を土手の上から写真にとり真物より早く市場に出してしまったとか、展示会で柄をメモしたり、写真をとったり、はてはめぼしいものを買い占めて、それをすっかりコピーしてしまうなどー。数え上げればきりがありません。模様は筆記や写真でもわかりますが、織りの組織は布地をほどいてみないとわかりにくいものなので大量に買っていくのです。まねする、盗む人たちの仕事の早さは驚くベきもので、その点は感心しますね。もっとも、早く作って、真物より先か同時くらいに売りに出さないと売れないのがにせ物の常です。
どんなものでも、真物よりにせ物のほうがすぐれているということはまずありません。ましてただもうけたい一心だけでまねをしたものに、いいものがあるはずはありません。