コラム

きものの話あれこれ 村田吉茂
1971年(昭和46年)3月「ミセス」掲載

No.3 染めのきもの 2
ろう染めとさらさ

 次にろうけつの話に移りましょう。

 今では、ろうを用いて防染した染め物を一様にろうけつと呼んでいますが、厳密にはろうけつと呼ぶ手法で染められているきものはあまりないはずです。ろうけつという手法は、チャンチンという、南方で使用している口先のとがった入れ物にろうをとかして入れ、それで布地に柄を描く手法のことで、描いたあとは染料のかめの中につけ染めをします。本物のジャワさらさがこの手法です。

 現在、日本のきものや帯用に染められているろう染めは、ろう描き染め、つまり筆にろうを浸して描く手法が大部分で、染め方もひき染めがほとんどです。ろう描き染めはチャンチンで染めるろうけつのように、細いきびしい線が出ませんが、逆に筆の筆致が出て、自然のかすれた濃淡が出るところに、また別の躍動感があるわけです。

 最近では、ろう染めも、手描きのもののほかに、型ろう染めができるようになりました。その違いは、手描きのものは同じところが一つもなく、動きがあることでしょう。もちろん、いつも申し上げている入心度に大きな違いがあり、それがおのずから柄に出ているわけです。

 ろう染めは、古い歴史を持ち、戦後人気が出た染めの手法で、手染めでも、型染めでも、自然に出るろうの亀裂、かすれ、筆致に躍動感があり、これが現代の女性に受けるわけですね。しかし、戦後ろう染めを手がけた人たちが、工芸的感覚を持った人たちだったせいか、どうしてもくせを持った色調のものが多く、ろう染めというと、渋い、趣味的だという印象を皆さんに与えたようですね。まあ、これには、ろうを使うため、熱を加えないと染まらない染料が使えない、ということもありますが…。ろう染めを好む人たちの多くが、はなやかで自由な色調を出せない制約もあって、渋いものになったということがいえると思います。

 あまり、一般的ではありませんが、さらさも染めの技法として忘れることはできません。さらさはインドさらさをもとにして、東洋、西洋でいろいろなものが染められています。わたしもさらさの先祖から伝えられた邪気のない柄と洗練された入念な技術から出る芸感が美しくて好きで、インド、ジャワ、オランダなどの古いものをたくさん持っています。時おり、博物館などの要請で出品したりしていますが、衣桁に掛けおりにふれてながめたりもしています。古いものほど入心度が高く美しいと思います。

 古い時代に渡ってきたものを古渡(こわた)りといいますが、その時代の大名や教養の高い町人などの、いわゆる文化人たちの心をとらえたのは、高価な希少価値もあったでしょうが、入心度の高い美しさだったと思います。

 さらさも、渡来したものを模倣したり、さらさ風の柄を小紋染めにしたものなどがありますがなかなかいいものがないのは、創意、苦心したという作者の入心度がないからだと思われます。

 また、さらさのような異国的な特殊な味のあるものは、そういうものが似合う人柄とそうでない人柄とがありますね。いつも申し上げているように、好きだからいいでしょう、といって身につけるのはどうでしょうか。そんな、きものと着る人の風格、人柄なんかについては、またお話ししていくことになるでしょう。