コラム

きものの話あれこれ 村田吉茂
1971年(昭和46年)2月「ミセス」掲載

No.2 染めのきもの 1
別染めは勇気と決断がいる

 きものを買うときには、できたものの中から選ぶ場合と、注文で染めたり、織ったりしてもらうという場合とがありますね。今月は染めの話なので、染め物の注文について、初めにお話ししましょう。

 注文でも、染め見本どおりというのは、まあ安心です。けれども、柄は気に入ったけれども、見本の色差しを変えて、地色を変えてというのは危険ですね。小さな色見本で決めると、どうしてもでき上がったときにご自分で考えていた色と違うなんていうことがよくあります。それでも、小紋の着尺のようなものはまだ失敗が少ないんですが、別注の訪問着や付下げなんかは、よほど信頼できて、自分のことをよく知っていてくれる店でないと、不安感がつきまといます。ちょっとでも不安感があるときはおよしになったほうがいいですよ。私はよく言うんですが、勇気と決断がないかたは別注はおやめなさい、でき上がったものの中からお選びなさい、と。

 小売り店でもデパートでも、注文を受けてから職人の手に渡るまでに、問屋や何人もの手を経て染め屋に渡るわけですから、注文が正しく通らないことが多い。それに、職人に直接詳しく指示したり監督できる呉服屋が、近ごろは少なくなりました。

 呉服屋は、家を建てることについては何でも知っていて、職人に指示ができ、なおかつお客さんの好みも生活状態もよく承知している、建築の総監督のような人でなければいけないんです。製品の仕入れはもちろん、製作工程まで主人の目が届く、お菓子屋でいえば、小豆の選び方からでき上りまで主人の目が通っていて、いつ行っても安心して買える店ですね。ただし、そういう店は大量生産ができない。きものも同じわけで、たとえば一越ちりめんのような白生地でも、いいものと悪いものがあり、素人のかたにはそれがわからないどうしても呉服屋任せになるわけで、呉服屋は、その信頼にこたえられるような品ぞろえをしておかなければいけないわけです。こういう店でないと、別注しても満足する結果が得られない、不安だったら、染め上がったものの中からお選びになることですね。